支援の進め方(架空ケース)

社員150人のIT企業。売上は伸びているのに、社長の仕事が減らない。

この会社に入ったら、私は最初に何をするか。

執筆:山口 剛志(株式会社YSKG 代表取締役)

「部長に任せたいのですが、結局、私が全部確認しています」。そんな状況で、何から変えるか。私は、すぐに組織図を書き直したり、研修を始めたりする前に、社長へ戻ってきている仕事を具体的に見たいと思います。

このページの会社、会話、資料、数値は、支援の進め方を説明するために作成した架空の例です。実際の顧客事例や成果ではありません。期間や分担も一例で、実際の支援では個別に決めます。

ここでは、社員150人のIT企業を例に、最初の相談から、一つの仕事を任せて振り返るまでの進め方を紹介します。自社ならどこが違うかを考えながら読んでみてください。

まず、この会社の状況です

項目 今回の設定
事業 法人向けのシステム開発・運用
社員数 150人。複数の開発部門と営業・管理部門がある
いま起きていること 売上は伸びているが、見積承認、追加対応、人員配置の相談が社長に集まる
社長の希望 日々の案件確認を部長へ任せ、重点顧客と次の事業の検討に時間を使いたい
部長の状況 担当案件を持ちながら、部門管理も担っている
まだ分からないこと 社長の確認が必要になる理由と、部長が判断できる条件

この時点で「管理職の能力不足」とは決めません。権限、情報、時間、経験のどこに問題があるかは、実際の仕事を見てから考えます。

01|最初の面談で、私はこの五つを聞きます

「任せたい」を、具体的な仕事にする

社長が忙しいことは分かりました。ただ、「もっと任せましょう」だけでは何も変わりません。最近の一件を取り上げます。

聞くこと 確認したいこと
この一週間で、どんな判断が社長に来ましたか? 仕事の種類、件数、確認に使っている時間
その中で、部長が決めてもよかったと思うのはどれですか? 社長が考える、任せてよい範囲
それを部長が決めなかったのは、なぜですか? 権限・情報・基準・経験・時間の不足
部長の判断を、あとから変えたことはありますか? 任せると言いながら、確認が必要になる運用になっていないか
その仕事を手放したら、何に時間を使いたいですか? 取り組みの目的と優先順位

社長:「通常の見積もりなら部長に任せてよいと思っています。でも、採算が気になるので最後は見ています」

私:「では、最近確認した見積もりを三件見せてください。どこが気になったのか、部長には何が見えていたのかを一緒に確認したいです」

最初から立派な資料を用意していただく必要はありません。普段使っている見積書、案件の管理表、会議の議事録で構いません。

02|資料は、判断が止まる場所を探すために見ます

同じ「社長確認」でも、理由は違う

例えば、三件を並べると次のような違いが見つかるかもしれません。

架空の案件 社長へ来た理由 まず整理すること
A:既存顧客からの通常案件 ルール上、すべての見積もりが社長承認になっている 部長が決められる範囲と例外条件
B:仕様追加のある案件 営業は追加受注と捉え、開発は工数不足を心配している 追加工数、顧客条件、誰が調整するか
C:重要顧客への特別対応 今回の採算だけでなく、今後の取引方針も関係する 経営判断として社長へ上げる論点

三件とも、社長のところへ来ています。でも、同じ対策にはしません。Aは決裁の範囲、Bは部門間の分担、Cは経営として判断する材料の問題です。

私はまず、この違いを社長と部長で共有します。組織図を変えるかどうかは、そのあとに考えます。

私がつくる最初の整理表

仕事 誰が判断するか 判断に必要な材料 例外として相談する条件
合意した範囲の通常見積もり 開発部長 見積工数、費用、予定する配置、顧客条件 採算・納期・契約条件が合意した基準から外れる
追加要望への対応案 営業と開発で案を作り、権限のある責任者が決める 追加工数、金額、納期への影響 部門間で合意できない、または権限を超える
重要顧客への特別条件 社長または所定の会議体 選択肢、今回の負担、今後の取引への影響 通常案件と区別して、判断してほしいことを明記する

金額や採算の基準は、この表を見ただけで一律に決めません。実際の原価の捉え方、契約、社内の決裁ルールを確認して、会社に合う条件を置きます。

03|社長と部長の意見が違う場面を扱います

「任せている」と「任されていない」が同時に起きる

社長:「この程度は部長が決めてほしいのですが」

部長:「前に自分で決めたら、あとから条件を変えるように言われました。どこまで決めてよいのか分かりません」

このとき、どちらかを説得して終わりにはしたくありません。前回の案件を見ながら、社長が気にした条件が、判断する前に部長にも伝わっていたかを確認します。

その場で整理すること 今回のケースでの合意例
通常時に誰が決めるか 合意した条件を満たす見積もりは部長が決める
何があれば事前に相談するか 特別な契約条件、採算基準からの逸脱、他部門の人員利用など
社長があとから違和感を持ったらどうするか 新しい情報が出たのか、事前の基準が不足していたのかを分けて振り返る
急いで見直す必要がある場合 顧客や契約への影響を確認し、所定の権限で対応を決める

一度任せたら一切口を出さない、という話ではありません。判断を変える必要があるなら、何が変わったのかを説明し、次の判断に使えるようにしたいと思います。

04|最初は、一部門の通常見積もりで試します

全社の制度を一度に変えない

今回なら、まず一部門・一種類の仕事を対象にします。対象の案件を誰が見て、いつ振り返るかまで決めます。

時期の例 一緒に進めること 残すもの
最初の週 社長と部長に話を聞き、直近の案件を確認する 判断が止まった案件の一覧
次の週 任せる範囲、例外、必要な情報、担当者の時間を確認する 判断の分担表と簡単な記録様式
続く二週間 対象案件で試し、短い振り返りを行う 判断の記録と、基準を直す箇所
一か月後 続けるか、範囲を変えるかを決める 次に任せる仕事、残す支援、社内で担う仕事

案件が少なければ、判断できる材料が集まるまで期間を延ばします。一か月たったことだけを理由に、対象を広げることはしません。

ここで、YSKGと社内は何をするか

担当 担うこと
社長・経営陣 目的、優先順位、任せる権限、重要な例外の扱いを決める
部長・社内担当者 実際の案件情報を出し、合意した範囲で判断して記録する
私・YSKG 案件を整理し、基準と資料のたたき台を作る。意見の違いを整理し、試した結果から修正案を出す

社内に担当できる人がいなければ、その前提で範囲を組み直します。「これをやってください」と仕事を増やすだけでは、実行できないためです。

05|一か月後は、何が変わったかをこう見ます

社長への相談が減っただけでは、うまくいったとは言えません

社長に相談せず、部長のところで止まっているかもしれません。必要な相談まで控えるようになった可能性もあります。私は、件数と具体的な案件の両方を見ます。

確認すること 見る理由
対象案件数と、社長へ上がった件数・理由 案件量の変化と、任せ方の変化を区別するため
必要な情報が揃ってから判断するまでの時間 待ち時間が別の人へ移っていないか確かめるため
判断後の差し戻しと、条件変更の理由 基準や情報の不足を見つけるため
採算・納期・顧客対応への影響 速く決めることだけが目的にならないようにするため
社長と部長が使った時間 社長の負担を部長へ移しただけになっていないかを見るため
社長が、本来使いたかった仕事に時間を使えたか 最初に決めた目的に戻るため

試す前にも同じ種類の案件を確認し、対象と数え方を揃えます。件数が少ない場合、数字だけで結論を出さず、一件ずつ経緯を読みます。

結果によって、次の手は変わります

見えた状態 次に考えること
部長が判断でき、手戻りや負担も許容できる 現在の範囲を続ける。似た仕事へ広げられるか確認する
社長確認は減ったが、部長の負担が増えた 部長が手放す仕事と、補助する人を見直す
例外の相談が多い 基準が粗いのか、本当に例外が多いのかを案件から確認する
判断後の手戻りが増えた 対象を狭め、必要な情報や確認手順を整え直す

このページでは、架空の成功数値は置いていません。支援を始める前に約束するのは、成果の数字ではなく、何を試し、何を見て、どう判断するかを具体的にすることです。

私が、最初から変えようとはしないこと

今回の状況だけで、組織図、人事制度、会議、採用方針をすべて変えるとは決めません。通常の見積もりを任せるだけなら、権限と情報の整理で進む可能性もあります。

一方で、部長の評価が個人売上だけで決まっていたり、部門ごとに原価の見方が違っていたりすれば、任せ方だけでは解決しません。そこで初めて、評価や事業管理も見直す範囲に入れます。

私は、入口の相談だけで仕事の範囲を決めつけず、関係する問題を確かめたいと思っています。ただし、支援の範囲を広げるときは、何のために必要か、社内で誰が担うか、費用と時間がどう変わるかを相談して決めます。

自社なら、どの仕事から始めますか?

まず一つ、最近社長の確認になった仕事を思い浮かべてください。

  • 何を決める仕事でしたか。
  • なぜ社長の確認が必要でしたか。
  • どの条件が揃えば、誰に任せられそうですか。

この三つを話せれば、相談の入口になります。社内資料を整え直してからでなくても構いません。

YSKGへのご相談

この会社と同じ状況である必要はありません。いま止まっている仕事を一つ取り上げ、どこから変えるかをご一緒に考えます。社内資料を整え直してからでなくても構いません。

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山口 剛志株式会社YSKG 代表取締役

HRR株式会社(現 リクルートマネジメントソリューションズ)で人事コンサルティングに従事し、その後、事業会社で総務・人事部長、執行役員、取締役を経験。2019年にYSKGを設立。設立後は複数企業でCHRO、経営企画部長、コーポレート部長などを兼任し、経営と組織・人事の実務を支援。

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